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札幌地方裁判所 平成3年(わ)637号 判決 1992年1月30日

主文

被告人を懲役三年に処する。

この裁判確定の日から四年間刑の執行を猶予する。

被告人から四七〇万円を追徴する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、昭和六三年四月二〇日から日本国有鉄道清算事業団(以下、国鉄清算事業団という。)北海道支社用地管理課補佐兼用地担当課長として、平成元年六月一日から同支社用地管理第一課長として、同支社長の指揮を受けて右各課所管の事務を掌理するとともに所属職員を指揮し、右各課所管の土地の管理及び処分に関する計画の策定並びにその実施等の職務に従事し、平成三年四月一日から同支社次長として、同支社長を補佐し、用地管理第一課長ら各課長を指揮・指導して同支社所管の土地等資産の管理及び処分に関する業務の整理等の職務に従事していた。

また、分離前の相被告人Aは、各種測量等の業務を目的とする協友測量株式会社の代表取締役として同社を経営し、分離前の相被告人Bは、ゴルフ場の設計等の業務を目的とする明和通商株式会社の代表取締役であり、分離前の相被告人Cは、その妻Dを代表取締役とし、建材・骨材の販売等を目的とする株式会社伸和を経営していた。

被告人は、

第一  Aから、

一  平成元年六月二一日ころ、札幌市中央区<番地略>所在の第二ワシントンホテル一階喫茶店「カフェ・ド・パリ」において、かねてより国鉄清算事業団北海道支社が発注する旧万字線付替道水路財産整理に関する測量業務等の入札に際して、入札予定価格の内報を受けるなど有利便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び将来も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、現金二〇〇万円の供与を受け、

二  平成二年六月六日ころ、かねてより同支社が発注する駒ヶ岳姫川間ほか二か所の付替道水路財産整理に関する測量業務等の入札に際して、入札予定価格の内報を受けるなど有利便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び将来も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、同市北区<番地略>株式会社北海道銀行札幌駅北口支店の被告人名義の普通預金口座に、現金三〇万円の振込入金を受け、もって、被告人の前記職務に関してそれぞれ賄賂を収受した。

第二  同年八月七日ころ、同市中央区<番地略>北一ビル内駐車場において、Bから、同支社が行う土地売却等に関し、内部資料(月別売却実施計画表の写し)の提供を受けるなどの有利便宜な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、外国製中古自動車一台(時価約一三〇万円相当)の供与を受け、もって、被告人の前記職務に関して賄賂を収受した。

第三  Cから、

一  同年七月二六日ころ、同市同区<番地略>中銀三番館ビル三階スナック「桃世」こと物江百世方店舗内において、千歳市がCから道路用地等として買収する株式会社伸和所有の土地の代替地として前記支社が管理する国鉄清算事業団所有の千歳市青葉丘一五一七番一ほか一筆の土地を売り渡すことなどに関し有利便宜な取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、現金一〇万円の供与を受け、

二  平成三年五月二一日ころ、右一記載の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、札幌市中央区<番地略>株式会社北海道銀行札幌駅前支店の被告人名義の普通預金口座に、現金一〇〇万円の振込入金を受け、

もって、被告人の前記職務に関してそれぞれ賄賂を収受した。

(証拠)  <省略>

(適用した法令)

罰条 判示の各行為につき、いずれも刑法一九七条一項前段

併合罪の処理 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の一の罪の刑に加重)

刑の執行猶予 刑法二五条一項

追徴 刑法一九七条の五後段

(量刑の事情)

一  本件は、日本国有鉄道清算事業団北海道支社の幹部職員で同事業団の用地の管理・処分等の業務に精通し、同支社次長にまでのぼりつめた被告人が、その職務に関して、有利便宜な取り計らいをし、又は、将来そのような取り計らいをするとの趣旨のもとに、Aからは、前後二度にわたり現金合計二三〇万円を、Bからは時価一三〇万円相当の外国製中古自動車を、Cからは前後二度にわたり現金合計一一〇万円を収賄したという事案である。もとより、公務員とみなされる同事業団職員が賄賂を収受することは、その職務の公正さを著しく害するもので、許されようはずはなく、殊に、被告人は、判示第一の各犯行にあっては、再三にわたりAから接待を受けるなどした上、自ら金員を要求し、犯行に及ぶとともに、同人の経営する協友測量株式会社に入札予定価格を内報したりして、指名競争入札を事実上形骸化させるような行為に及んだものであり、また判示第二の犯行にあっては、Bに対し自ら内部資料の提供を暗示して外車を要求した上、現に外車を取得するのと引き換えに内部資料を同人に渡したりしたものであり、更に、Cに対しても露骨に金員の交付を要求した上犯行に及ぶとともに、Cの代替地入手の希望に沿い、部下に指示して強引に用地売却計画を進めようとしたものであって、いずれも、いわゆる要求型の収賄事犯であり、職務に対する国民の信頼を失墜させた点は甚だしいものがある。また、被告人の本件各犯行の動機も、遊興費欲しさや自ら使用する自動車が欲しかったためだけの私利私欲に発したもので酌量の余地はなく、収受した賄賂の額も自動車を含み合計四七〇万円と相当多額に及んでおり、その犯情は悪質で、被告人の刑事責任は重く、この際、実刑に処することも十分考慮されるべき事案であるといわなければならない。

二  しかしながら、被告人は、本件が発覚した後はその犯行の重大性を認識、反省して、捜査にも協力してきており、公判廷においても前面的に自己の非を認めていること、本件が発覚したことにより国鉄清算事業団を懲戒免職になり、これまで築いてきた地位や利益を一気に失うなどの不利益を受け、さらに、本件が報道されたことなどで、相当な社会的制裁を受けていること、長年国鉄及び国鉄清算事業団で勤務し、相当な業績を上げていたこと、前科前歴のないことなど、酌量すべき事情も認められる。

三  以上の事情、及び、弁護人の指摘する被告人の家庭状況、経済状態などの諸事情を総合考慮すると、被告人に対しては主文掲記の刑を科し、今回に限り、その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

(裁判長裁判官中野久利 裁判官吉村正 裁判官伊東顕)

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